役員報酬(定期同額給与)の支給額を改定する際の注意点

役員報酬(定期同額給与)の支給額を改定する際の注意点

会社の業績が変化すると、期中であっても、毎月支払う役員報酬の改定(増額・減額)を検討する可能性がありますが、改定の理由によっては、税務上、その一部が損金として認められない場合があるので注意しましよう。

損金算入ができる定期同額給与とは?
法人税法では、役貝報酬や役員賞与を「役員給与」と呼びますが、毎月、一定額を支給する役員報酬については、次の要件を満たせば、定期同額給与として般金算入が認められています(税務署長への届出は不要です)。

定期同額給与の要件
①支給時期が1か月以下の一定の期間ごとであること(実務上は月払いが一般的)
②その各支給時期における支給額が事業年度を通じて原則同額であること
※損金算入が認められる役員給与には他にも、事前に税務署に届け出ることで、月々の報酬とは別に所定の時期に確定額を支給する事前確定届出給与などもあります。

定時株主総会での役員報酬の改定
上記のように定期同額給与の要件は、月々の支給額が事業年度を通じて原則同額であることであり、事業年度の途中に増額や減額をすると、原則としてその一部が損金として認められません。ただし、決算終了後の定時株主総会など、毎年所定の時期に行われる改定(通常改定)で、次の要件を満たす場合は、定期同額給与とみなされ、全額を損金にすることができます。

通常改定で定期同額給与とみなされる要件
①期首から原則3か月以内(3月決算法人なら6月末まで)に行う改定であること
②事業年度内において、改定前の毎月の支給額が同額であること
③事業年度内において、改定後の毎月の支給額が同額であること
※株主総会での決議内容を記した議事録をきちんと保管しておきましょう。

例えば、役員報酬の支給日を毎月末とする3月決算法人が、5月25日開催の定時株主総会において、報酬額を60万円から70万円に増額する決議を行い、総会直後の5月31日または翌月の6月30日から支給する場合は、増額後の70万円全額が損金として認められます。

業績悪化を理由に役員報酬を減額する場合
業績や資金繰りが悪化したことで、事業年度の途中に、役員報酬(定期同額給与)の減額を検討することもあると思います。このような場合、減額の理由として、やむを得ず役員報酬を減額せざるを得ない事情があれば、減額後も全額が損金として認められます。

やむを得ず減額せざるを得ない事情とは?
①財務諸表の数値が相当程度悪化した
②倒産の危機に瀕している
③経営悪化により、第三者である利害関係者(株主、債権者、取引先等)との関係上、役員給与を減額しなければならなくなった
※一時的な資金繰りの都合、あるいは単に予算を達成できなかったといった理由は、やむを得ない事情には含まれません。

例えば、次のようなケースが考えられます。
●銀行との間で借入金の返済期限延長や条件緩和(リスケジュール)をするため、役員報酬を減額しなければならなくなった。
銀行との交渉時に作成した返済計画、資金繰り表などで減額の理由を明らかにしておきます。
●業績や財務状況、資金繰りが悪化したため、取引先等からの信用を維持・確保するために、役員報酬の減額を盛り込んだ経営改善計画を策定した。
減額する金額や期間、減額による効果など、取引先等が納得する経営改善計画であることが必要です。

次年度経営計画の中でよく検討する
以上のように、役員報酬(定期同額給与)は、事業年度の途中で改定すると、原則として一部が損金として認められませんので、次年度の経営計画の策定過程において、会計事務所ともよく相談して、役員報酬の設定についても慎重に検討しましょう。

税理士法人アスタクス事務所通信より

税務役員報酬(定期同額給与)の支給額を改定する際の注意点

役貝給与については、国税庁ホームページに掲載されている「役員給与に関するQ&A(平成20年12月)」(平成24年4月改訂)が参考になります。
1.役員給与の支給時期

一般社員が会社と雇用関係にあり、会社と労働契約(雇用契約)を結んでいるのに対して、役員は会社から経営を委任されるという関係にあり、受け取る役員報酬は「経営を委任する報酬」という位置づけになっています。役員に関しては、各支給時期に支給された月額報酬がその役員給与に係るその月分ということになりますので、株主総会等において特に支給時期まで定められている場合は別として、毎月末日に「未払役員給与」として処理されているのであれば、その日が支給時期とされ、その未払額がその月分の支給額であるということになり、また、支払日に役員給与としての経理処理が行われるのであれば、その支払日が支給時期となってその日支払われたものがその月分の役員給与とされることになります。(参考:衛藤政憲著『役員給与課税の重要点解説』(大蔵財務協会))

2.改定決議(5月25日)直後の支給分(5月31日)から増額しなくてもよいのか?
役員の職務執行期間は、一般に定時株主総会の開催日から翌年の定時株主総会の開催日までの期間であると解され、定時株主総会における定期同額給与の改定は、その定時株主総会の開催日から開始する新たな職務執行期間(翌職務執行期間)に係る定期間額給与を定めるものであると考えられます。
したがって、定時株主総会において5月25日から開始する翌職務執行期間に係る最初の給与の支給時期を、定時株主総会直後に到来する5月31日ではなく、その翌月の6月30日であるとする定めも一般的と考えられるため、6月30日から改定額を支給しても定期同額給与になります(国税庁「役員給与に関するQ&A」[Q2])。

3.役員給与の減額の際の注意
(1)経営上の数値的指標が著しく悪化した
役員給与の減額にあたり、会社経営上の数値的指標の著しい悪化が不可避と判断される客観的な状況としてどのような事情があったのか、経営改善策を講じなかった場合の指標を改善するために具体的にどのような計画を策定したのか、といったことを説明できるようにする必要があります。

(2)役員が病気等により職務の執行が一部できなくなった
役員が病気で入院したことにより当初予定されていた職務の執行が一部できなくなった場合に、役員給与の額を減額することは臨時改定事由による改定と認められます。また、従前と同様の職務の執行が可能となったことにより、取締役会の決議を経て入院前の給与と同額の給与を支給する改定についても、「役員の職務の内容の重大な変更その他これに類するやむを得をい事情」として臨時改定事由による改定と認められます。

(3)業績悪化による改定
例えば、次のようなケースが業績悪化改定事由に該当すると考えられますが、あくまでも客観的な状況によって判断します。客観的な状況がない単なる将来の見込みにより役員給与を減額した場合は該当しません。
①売上の大半を占める主要得意先の経営悪化により、その事業規模を縮小せざるを得ない状況にあることが判明し、数か月後には当社の売上が激減することが避けられない状況が生じた場合において、現状では売上などの数値的指標が悪化しているとは言えないが役員給与の滅額などの経営改善策を講じなければ客観的な状況から今後著しく悪化することが不可避である場合
②主力製品に瑕疵があることが判明して、今後多額の損害賠償金やリコール費用の支出が避けられない場合
[参考]国税庁「役員給与に関する Q&A(平成20年12月 )」(平成24年 4月改訂)

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