DV被害者の遺族厚生年金

2001年に配偶者暴力防止・被害者保護法(DV防止法)が施行され、家庭内暴力は犯罪行為と認められました。

DV被害を受けた妻が暴力から逃れるため別居したような場合、住所も告げずに、夫に生活費を支払うように求めることも、親族との連絡さえも絶って夫の陰におびえながら暮らしていく、というような状況がほとんどではないでしょうか。
では、その夫(厚生年金被保険者または被保険者であった)が亡くなった場合、やっと今まで籍も抜かず堪え忍んでいた妻に遺族厚生年金が支給されるかというと、そう簡単ではありません。
なぜならば、遺族厚生年金の受給できる遺族とは、死亡した人によって生計を維持されていた配偶者(など)とされており、生活援助を受けていた、音信を取り合っていたなどの事実確認が求められます。
通常、遺族厚生年金を請求するときには戸籍謄本、住民票、妻の所得証明などをもって生計維持が確認され、住民票の記載に夫と妻がいっしょに載っていれば毎月どのくらいの生活費を渡していたかなどと詮索されることもありません。
しかし、妻に定期的に仕送りしていたり、お互いに連絡を取り合っていたらそれは別居していなくてもいいんじゃない?ということになるわけで、暴力から逃れるために社会から隔絶された最低限の経済生活を営まざるを得なかった妻に、自立して生活していたんじゃないかという判断はあまりにも酷ではないでしょうか。

遺族年金の不支給処分取り消しにかんしては以下のような判決もありました。
「厚生年金保険法が遺族年金支給の要件とした「死亡時に被保険者(夫)によって生計を維持した者」に女性があたるかどうかが争点だった。女性は夫の死後、いったん年金支給が決まったが、岡山西社会保険事務所は2007年、「夫による生計維持が認められない」と支給を取り消していた。
判決理由で近下裁判長は、別居の原因が主に夫の暴力にあると認定。別居後の2000年、岡山家裁が夫に月3万円の生活費支払いを命じたが、夫は支払わないまま04年に死亡したことに触れ、「夫の生活費支払い拒絶が著しく不当な場合、生活費を払っていなくても支給を認めるのが相当」と判断し、不支給処分を違法とした。」
(2008年11月18日 東京新聞)

今回、私が提出したDV被害者の遺族厚生年金請求では、夫がガンを発症し、入院後近況や症状を訴えるハガキを妻に出していたこと、入院費用や水道光熱費、保険料などの支払いを長男に任していたこと、長女を通じて生活費をある程度渡していたこと、それをメモしていたことなどの事実を添えて「生計同一関係」にあるとみなされ受理に至りました。もちろん審査が終了して年金証書が送られてくるまでは安心出来ませんが。

結局、DV被害者であるかどうか、またはその被害程度によって遺族厚生年金の受給が決まることはないといえそうです(事実、年金事務所でDVの実態について聴取されることはありませんでした)。
それが法律の規定だといわれればそれまでなのですが、「配偶者の暴力により配偶者と住居が異なる方であって、国民年金保険料の納付が経済的に困難な場合、納付が免除になります」という措置を3号被保険者の資格延長ととらえれば、「婦人相談所および配偶者暴力相談支援センター等の公的機関が発行する証明書をもって」「夫の生活費支払い拒絶が著しく不当な場合」とみなし、「生活費を払っていなくても支給を認めるのが相当」という大岡裁きは望むべくもないことなのでしょうか。

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